デザインにおいて、「写真」にはどのような役割があるのでしょうか。ときにはビジュアルの大部分を占めることもあり、制作物のクオリティを左右する重要なポイントです。キャッチコピーなどの文字を読む前に、見る人の心を一瞬で掴むもの。それこそが「写真」なのではないでしょうか。だからこそ、デザイナーにとって写真を効果的に取り扱う技術は必要不可欠です。
2023年8月9日(水)に行われた第4回とくしまデザイン塾「写真」では、そんな写真について、フォトグラファーの米津光さんにお話いただきました。写真を撮る人も撮らない人も知っておくべき、写真の意義や考え方について迫る講座になりました。
まずは米津さんのキャリアについてお話いただきました。全国から広告写真を依頼される米津さんは、カメラの技術はなんと独学で習得したのだそう。専門学校や、スタジオ勤務を経ることなく、海外の広告写真集に衝撃を受け、撮影のテクニックを研究する日々だったと振り返ります。今回は、米津さんが長年の研究と現場での経験を踏まえたお話をしてくださいました。
講義の前半では、広告写真とは何かについて解説。「広告写真とは、一瞬で記憶に残ること、そして購買意欲をそそるものであることが大前提です」と米津さんは話します。動画と違って写真には見てもらうチャンスが一瞬しかありません。ただ綺麗な写真では、記憶に残ることはないでしょう。雑誌であれば、ページをめくる手を止めるほどのインパクトを与える必要があると話します。つまり、カメラマンの仕事は写真を撮ることだけではなく、「写真で人の心を掴むことである」という姿勢を見せてくださいました。
また、人を惹きつける写真を撮るために欠かせないプロセスの一つが「完成画像を思い描くこと」だと米津さんは語ります。完成画像を描く大切さを伝えるため、ご自身の仕事の事例を紹介しながら普段の撮影の流れをご紹介くださいました。撮影の依頼が来たらまず、クライアントやデザイナーからの要望をヒアリングします。どのような写真が必要か明確に設計図を思い描くそうです。そして、撮りたい写真を実現させるためにどのような演出が必要かを考えます。最終的な現場では、欲しい画を実現するために必要な手順を着々とこなしていくのだそう。だからこそ、完成画像が曖昧なまま撮影を始めてしまうと、かなか撮影が終わらないのだとか。お話を聞いていると、リサーチ、ロケハン、ライティングなどの撮影計画に時間を割いており、方針を決めてから撮影を完了するまでは比較的短時間で終わっていることが分かりました。
もう一つ、撮影する時に欠かせないことが「その写真がどのように使われるか知ること」だと米津さんは話します。例えば、紙面上で小さく使われるにも関わらずコース料理のように品数の多い写真を撮影すると、紙面に置かれたときに情報過多になってしまい、料理の魅力が伝わらなくなってしまいます。被写体の魅力を十分に伝えるためにも、写真がどのような大きさでどのような目的で使用されるのか、あらかじめクライアントやデザイナーと擦り合わせることが重要だと教えてくださいました。
続いて、講義の後半ではご自身の写真作品について、撮影方法を解説くださいました。魔法のように見える写真たちは、実際には研ぎ澄まされた技術とロジックで成り立っていることがわかりました。中でも印象的だったことは、米津さんの「光の繊細なコントロール」です。例えば料理の写真では、スプーンやソースに写り込む反射光まで計算して照明を当てているのだとか。魅力的な写真にするためにそこまでするのか、とプロの技に目を見張りました。
テクニックを一通り説明した上で、講義の締めくくりには「カメラマンとして技術を向上させたいという気持ちは20歳の頃から現在も変わりません。私は今までたくさんの失敗をしてきました。でも、それをどう解決するかを考えた経験が、私の力になっています。失敗は宝物です」と、ご自身の経験談から参加者の背中を押してくださいました。
質問タイムでは、「独学で写真をどのように学んだのか」「インパクトのある写真にするためにいつも意識していること」「米津さんにとって光とは何か」など、写真の本質に迫るような質問も飛び交いました。米津さんはどの質問にも丁寧にお答えくださり、講義の幕を閉じました。
技術講座の最終回は、「リスクマネジメント」です。クリエイターとして知るべき知的財産権や、契約関係についての基礎知識を学びます。デザイナーとして長く仕事を続けるためには、知的財産権は避けては通れない存在。知らずに権利を侵していると、大問題に発展することも。必要だけどなかなか手が出にくいテーマをINPIT徳島県知財総合支援窓口・窓口支援担当者の青木幸司さんに分かりやすく解説いただきます。単発受講も可能で、開講日の1週間前まで申し込みできます。お楽しみに!