2024.07.03

  • クリエイター訪問記

ものがたりをイメージするグラフィックデザイン

前のクリエイター訪問記でインタビューさせていただいたグラフィックデザイナーの浮津吉陽さん。今回のインタビューはその奥様である浮津雪菜さんです。雪菜さんもご主人と同じくグラフィックデザイナーとして活躍されています。

グラフィックデザイナー・浮津雪菜さん

雪菜さんはご主人と同じグラフィックデザイナーですが、そのスタイルは少し違っていて、イラスト表現を得意としているクリエイターです。徳島クリエイターズ・ライブラリのクリエイターさんは変わった経歴をお持ちの方が多いですが、お話を伺うと雪菜さんも独特なキャリアをお持ちでした。

「元々、子どもの頃から広告の世界に興味があったんですよ。それで、高校卒業後、京都芸術短期大学に進学しました。本当は他校のグラフィックデザイン学科に行きたかったんですけど、入試の倍率が高くて諦めて(笑)、映像学科に行くことになって。そこでは、映像や写真、アニメーション、CGなどを学びました。卒業後は、広告代理店に入社してケーブルテレビの番組制作をしながら、同時に映像作家グループに所属して自分の映像作品を作ったりもしていて。それで、あるとき、ケーブルテレビの仕事でとある劇団の取材に行ったんですよ。そこでその劇団に感銘を受けて、演者のオーディションを受けたんです」

そんな流れで、いきなり劇団の演者になった雪菜さん。6年間劇団に所属し、少年役等を演じていたといいます。突拍子もないようにも思えますが、劇団の演者もグラフィックデザイナーも“表現者”であることに変わりはありません。手法は違えど、雪菜さんはこの頃から誰かに何かを伝える表現者であったのです。

未経験だったグラフィックデザインの世界へ

その後、31歳で出身地である徳島に戻ってきた雪菜さん。そのときは、映像関連の会社に就職しようと思っていたそうなのですが…

「当時の徳島の映像制作の会社って、なんというか、男の社会だったんですよね。女性では務まらないというような空気があったというか。それで、未経験だったグラフィックデザインの方に進むことになったんです。広告の制作会社に就職して、先輩にデザインをイチから教えてもらいました。そこでは、グラフィックデザインの他にディレクションやライター業務もやらせてもらって、多くの経験を積むことができたと思います。その後、別の広告代理店を経て、2016年にフリーランスとして独立することになりました」

それから、先に独立開業していたご主人の吉陽さんと一緒に仕事をしている雪菜さん。営業は吉陽さん、イラストは雪菜さん、デザインは両方、と上手く分業して仕事をしています。

ものがたりをイメージすること

そんな雪菜さんのクリエイターとしてのこだわりは、『ものがたりを考える』ことだといいます。

「ずっとパソコンの前でグラフィックデザインだけをやっていたら、制作物を平面でしか考えなくなってしまうと思うんです。でも、だからこそ私は自分の制作物がどこに置かれて、誰の手に渡って、その後その人がどんな感情になって、どう動くのか、というものがたりを想像するようにしています。制作物はクライアントさんのために作るけど、最終的にそれを手に取るのは一般の方です。だから、クライアントさんがいくら満足しても、それだけでは意味がないと思っています。クライアントさんの向こうにいる一般のお客さんのことを常に意識して作っているつもりです」

ものがたりを考えることは、かつて劇団の演者としてものがたりを演じていた雪菜さんの得意とするところ。その仕事例を聞くと、最近制作したという徳島市の観光ガイドブックを挙げてくれました。

「まず、A5サイズで可愛らしく、手に取りやすいように。これを見ただけで、徳島市観光の“楽しさ”が伝わるようにイラストも使ってデザインしています。無機質になりがちなマップのページも手書き風で柔らかく表現して、マップページだけ切り取って便利に使えるようにもしました」

この冊子は品切れになるほど人気で、既に5回も増刷して、累計の発行部数は6万5000部にもなっているそうです。かつて自身が感銘を受けて劇団の演者になったように、誰かの感情を動かすことでアクションが起こることを雪菜さんは身をもって知っています。この観光ガイドブックを見れば、きっとその意味が分かるはずです。どこかで目にしたら、ぜひ手に取ってみてください。