2024.01.29

  • クリエイター訪問記

言うた通り作りませんが、いいですか?

前回のクリエイター訪問記でも訪れた、パッケージ制作の専門会社『パッケージ松浦』。そのときのインタビューではパッケージマーケッターである松浦社長にお話を伺いました。そして今回は、同社のデザイナーである桑原さんのインタビューです。もちろんパッケージデザインが専門なわけですが、その肩書きは『言うこと聞かないデザイナー』なんだとか。さて、一体どんなお方なのでしょうか?

言うこと聞かないデザイナー・桑原基輔さん

こちらは桑原さんからいただいた名刺。本当に『言うこと聞かないデザイナー』と書いています。自分の感性を信じて我を通すタイプのデザイナーはいますが、こんなに堂々と宣言している人は見たことがありません。このクリエイター訪問記の通例としては、まずクリエイターの経歴から話を聞いていくのですが、そんなことよりもこの肩書きが気になります。というわけで、最初の質問は「言うこと聞かないデザイナーってなに?」です。

「文字通り、クライアントに言われた通りにはデザインしないということです。やっぱり自分で『このデザインが良い!』と思ったものを提案してクライアントに喜んでもらう、というのが一番だなという思いがあって。言われた通りそのまま作るのであれば気合いも入らないですし、『それなら別に僕じゃなくても…』って思ってしまうんですよね(笑)」

逆に言うと、いわゆる全部“お任せ”できるデザイナーというわけですが、デザイン面で明確なこだわりがあるクライアントとはあまり合わないのかもしれません。桑原さんもそこは十分理解されていて、名刺には『言うた通り作りませんが、いいですか?』とも書かれています。

「言うこと聞かないですよっていうのをもう先に言っちゃおうと思って(笑)。それで名刺にも書いています。クライアントには最初にその名刺を渡して『言うこと聞かないですけどいいですか?』って確認するんですよ」

デザインの可能性を狭めないために

『言うこと聞かない』の意味をもう少し聞いてみると、桑原さんは「デザインの可能性を狭めないこと」だと話します。

「言うこと聞かないとはいえ、ヒアリングはするんです。でもヒアリングではその商品の意味や目的などを聞くだけで、色やフォントなどデザインの具体的な要望は一切聞かないようにしています。それを聞くとどんどんデザインの選択肢が減っていって、可能性が狭まってしまうんですよね。それに、クライアントの要望と現実が乖離している場合もあるんです。例えば、『富裕層を狙いたいので高級感を』という要望があったとして、でもその商品が並ぶのは富裕層があまり来そうにない普通のスーパーだったり。そういう要望と現実が乖離している状態で言うことを聞いてデザインしてしまうと、全く売れない商品パッケージができあがってしまいます」

パッケージデザインは消費者が商品を手に取る際に一番最後に目にするクリエイティブです。だからこそ、その良し悪し次第で売上は大きく変わるはず。桑原さんの『言うこと聞かない』はただのエゴだけではなく、結果を追い求めるからこそのスタイルだったわけです。

パッケージデザインはアイコン的存在

『パッケージ松浦』に入社する以前はスーパーのチラシなど、平面のデザインをやっていたという桑原さん。そういったチラシなどのデザインと立体物であるパッケージデザインは全然違うものだと桑原さんはいいます。

「まずパッケージデザインは立体的に考えないといけないというのはもちろんですが、アイコン的な存在でなければいけない、ということです。そういう意味ではロゴに近いと思っています。それと、チラシには瞬発的な効果が求められますが、パッケージには持続的な効果の方が重要です。極端な話、チラシの場合はデザインの見た目が悪くても、配ったその日に消費者からの反応があればそれでいいんですよね。でもパッケージはそういった瞬発的な効果、いわゆる一発屋的なものではダメで、一ヶ月後も一年後も持続的に買ってもらえるようなデザインでないといけません」

『パッケージ松浦』に入社して以来、パッケージデザインばかりを手掛けてきた桑原さんならではの考え方やスタイルがそこにはあります。餅は餅屋。パッケージを作るならパッケージ専門のデザイナーに依頼するのが最適解なのかもしれません。ただ、あまり言うことは聞かないようなのでご注意を!