日本タイポグラフィ年鑑や日本パッケージデザイン大賞ほか、いくつものデザインアワードで受賞するなど、長年クリエイティブの第一線で活躍されている大東浩司さん。個人のデザインオフィス『AD FAHREN(アドファーレン)』を創業する以前は、大手百貨店の社内デザイナーとして様々な商品に触れ、広告のノウハウを学んできました。そんな経歴を持つ大東さんにとって、企業広告のデザインは得意とするところ。独立後は、“伴走型”のデザイナーとして多くの企業のブランディングデザインを手掛けています。
“伴走型”とはどういうことなのか?また、大東さんはどのような思考で仕事をされているのか?インタビューさせていただきました。
「デザインをするということは、森を見ながら木も見るようなもの」だと話す大東さん。それは「俯瞰で全体を捉えながらも、細部の合理性を失わないようにこだわること」だと言います。そんな大東さんのデザイナーとしてのルーツは、大手百貨店に勤めていた頃にあります。
「社内デザイナーという専門職だったのですが、売り場に立つこともよくありました。その“売場に立つ”ということがデザイナーとして、とても勉強になったんですよ。作った広告を見られたお客様がどのように行動し購買に繋がっているのか、現場で見聞きしたことを次の仕事にフィードバックするという考え方は今も生かされています」
8年間百貨店のデザイナーとして勤めた後に事務所を開いた大東さん。アートディレクター・デザイナーとして、今も多くの企業や商品のブランディングデザインに関わっています。
「ブランドをデザインするというプロセスは、クライアントの事業の根幹に関わる重要なファクターだと思うんです。だから、プレゼンテーションは100%まで作り込んだものを提案するのではなく、あえて議論の余地を残すようにしています。デザインにおける“思考の余白”です」
「もちろんしっかり作り込んだものをプレゼンすることもある」と言いますが、クライアントとの対話の中で、事業の本質的な部分について議論したり、目指すべき目標について問いかけをしたりしながら、デザインの方向性を決めていくのが基本のスタイルなのだそう。
その意味を大東さんはこう話します。
「僕にとってデザイナーとは、クライアントと一緒に走り共に成長する伴走者のようなもの。デザイナーが一人で考えて作りきってしまうことはある意味簡単なことかもしれませんが、クライアントにもデザインのプロセスを共有してもらい、一緒に考えてもらうことを大切にしています。ロゴをプレゼンする時にもコンセプトをしっかり確認するのは“好き嫌い”だけで判断しない思考を持っていただくためでもあるんです」
クライアントと共にデザインを考えていく作業は、ブランドの基礎を作り上げていくことであり、事業自体のブラッシュアップにもなっているんですね。こういったやりとりは、物事の様々な問題点を見つけて解決する能力を高める、お互いの成長の場にもなっていると言う大東さん。つまり、デザイナーという垣根を超えた長期的なパートナーであるということ。それを一言で表したのが、「デザイナーとは伴走者」という言葉だったのです。だから、大東さんはクライアント一人ひとりと向き合う時間が自然と長くなるのだそう。
「クライアントと一緒にゴールを描き、そこへ向かって一緒に走っていくのが僕の仕事です。大事な時に支えられる伴走者だからこそ、ゴールしたときには一緒に喜べるんですよ。それは小さなお店のオーナーさんでも、大企業の経営者の方でも同じこと。クライアントとのそうした関係の積み重ねが、今の自分の仕事の芯になっていると思います」
決してクリエイターのエゴを押し付けるようなことはせず、クライアントに寄り添い、共に考えることを大切にするデザイナー大東さん。
今日も誰かの隣で、デザインという名の伴走を続けています。