2021.05.19

  • クリエイター訪問記

色がないのが僕の色。クライアントと共につくるデザインワーク

徳島市でグラフィックデザインの個人事務所『Clover Studio』を構える坪井さん。パンフレットや店舗看板など徳島の街中で「あ、これいいな」と思うデザインを見かけると、それが坪井さんのデザインだったり。今回は、『Clover Studio』にお邪魔して坪井さんのお話を伺ってきました。 

グラフィックデザイナー・坪井 秀樹さん 

少年時代はイラストを描くのが好きで、幼稚園や小学生の頃の夢は漫画家だったという坪井さん。ですが、実際には社会に出て漫画家やクリエイターの道に進んだわけではなく、全く関係ない外食産業のサラリーマンをやっていたといいます。

「高校を出て進学したのもデザインとは関係ない普通の大学で、卒業後も大手チェーンの飲食店で働いていました。でもしばらく働いていると、外食産業での自分の能力や仕事に限界を感じるようになったんですよね。そんなとき、イギリスのクリエイター集団『TOMATO』の作品を見て『デ ザインの仕事やってみたいな』って思うようになって。それで当時28歳だったんですけど、脱サラして大阪のデザイン専門学校に通い始めました」

そうして、比較的遅い時期からデザイナーへの道を歩み始めた坪井さん。半年間専門学校でデザインの勉強をした後は、地元・徳島の制作会社に就職することになります。そのときの仕事は、冊子やパンフレットなどを制作するエディトリアルデザインがメインだったそう。エディトリアルデザインでは、もちろん見た目の美しさも必要ですが、“読者に情報を伝える”ことが最も大切な要素。そこで培ったスキルは、現在の坪井さんのスタイルにも大きな影響を与えています。 

大切なことを伝えるためのグラフィックデザイン 

「僕のデザインのこだわりは、“大切なことを伝える”ことです。そのためには、自己満足な見た目が良いだけのデザインであってはならないと思っています」

グラフィックデザイナーには、自分の“色(スタイル)”があってどの作品にも“らしさ”が出る人と、そうでない人がいます。どちらが優れているというわけではありませんが、坪井さんは後者の方のデザイナーです。作品ごとにスタイルが大きく変わっていて、変幻自在に数々のデザインを生み出しています。

「この仕事を始めた頃に聞いた大切にしている言葉があって。『広告とはラブレターの代筆である』という言葉です。企業やお店には、消費者に伝えたいことがあって、でも多くの場合それを自分たちでは上手く伝えられないんですよね。それを代わりに伝えてあげるのが僕の仕事。つまり、ラブレターを上手く書けない人の代わりに代筆してあげるようなものです。だから、そこに僕自身の色は必要ないんですよ。それよりも、その企業や人の色を表現してあげることが大切だと思っています」

だから、坪井さんは自身の色(スタイル)について、「色がないのが僕の色」だと言います。毎回クライアントのことを丁寧にヒアリングして、それを色としてデザインに落とし込むことが坪井さんの仕事の本質。そのため、坪井さんのデザインは毎回いつも新鮮で、スタイルが違って見えるのです。 

クライアントのビジネスの成功が何より嬉しい 

そんなスタイルの坪井さんだから、企業やお店のブランドイメージをデザインするCIやVIの依頼も多いそうです。実際に、徳島でヒットしているビジネスの中にも坪井さんのデザインがあります。『くろねこタルト工房』はそのひとつ。

「CIやVIの仕事で僕がロゴデザイン等をさせてもらったお店が行列になっているのを見ると、やっぱり嬉しいですよね。そのヒットした商品と共に自分のデザインが多くの人の手に渡っていくのは、僕にとって何よりの喜びです」

坪井さんにとってのクライアントワークでのデザインは、自分自身の作品ではなく、相手の想いや色を表現すること。それが、クライアントのビジネスを成功へと導く大きなポイントなのかもしれません。