2021.12.06

  • クリエイター訪問記

黒子として社会の役に立つデザインを

今回の訪問記は、『見えないところで誰かの役に立つデザイン』を信条にグラフィックデザイン業を行っている浮津さん。屋号である『アドレナリン』は、人間から見えないところで作用するホルモンと自らの信条をかけたものです。そんなアドレナリンの浮津さんにお話を伺いました。

グラフィックデザイナー・浮津 吉陽さん

大学をデザイン専攻で卒業し、その後、スポーツ店の販促部でアルバイトとして働いていたという浮津さん。大卒後はどこかの制作会社等に社員として入社するのがグラフィックデザイナーを目指す人の王道といえば王道ですが、なぜスポーツ店のアルバイトだったのでしょうか?その理由を浮津さんはこう話します。

「すぐにどこかの正社員になるとデザインの実務もあまりできなかったでしょうから、それならアルバイトで働きながらじっくり自分でデザインの勉強をしようと思ったんです。スポーツ店では店内に設置するポップや、広告などをデザインさせてもらっていました」

その後、オリジナルグッズ等の制作を行う会社の準社員を経て、浮津さんは広告制作会社に入社することに。そこでは10年間勤めたそうですが、その10年はクリエイターとしてのスキルの幅が大きく広がった重要な期間だったといいます。

「その会社は広告の制作だけではなく、イベントの企画や運営まで手掛ける会社でした。案件によっては僕が主体となってイベントの企画立案から運営管理、広告やツール一式のデザイン、会場装飾のアートディレクションまでを行っていましたので、デザインの周辺にある様々な業務経験を積むことができました。そのときに培ったスキルが、今の仕事にも生きていると思います」

クライアントの信頼を得る対応力の広さ 

元々、広告制作会社に入社してから10年後には独立することを決めていたという浮津さん。その通り、2014年に33歳で個人事務所『アドレナリン』を開くことになります。奥さんとの2人体制になった現在でも、前職で培った幅広い対応力は浮津さんの大きなウリのひとつになっています。

「うちの仕事は広告代理店さん経由のものが多いんですよね。代理店さんからすると、1から10まで細かく説明しなくても全体を理解して上手くこなす部分を評価していただいているのだと思います」

それは、デザインだけをこなしてきたクリエイターにはなかなかできないこと。過去にデザインの周辺業務も手掛けてきた浮津さんならではのスタイルです。代理店のみならずクライアントからの信頼が厚い理由のひとつでもあります。

working out of sight

浮津さんは自身のデザインのこだわりを「自分のカラーを出さない」ことだと言います。それは冒頭で記した『見えないところで誰かの役に立つデザイン』という信条に通ずる部分で、クライアントを第一に考えるデザイン理念です。

「僕のデザインは、自分ではなくあくまでお客様が主役。だから自分の作風は必要ないんです。特に代理店経由の仕事をしていると、僕の名前が表に出ることはありませんが、そこにこだわりはありません。お客様の役に立つデザインができればそれでよくて。黒子として社会の役に立つ仕事をしていきたいですね」

workingoutofsight(見えないところで働く)。これが『アドレナリン』のキャッチコピーだといいます。浮津さんの名が大々的に世に出ることはないのかもしれませんが、そのデザインはこれからも世の中に大きく役立っていくことでしょう。