2022.12.07

  • クリエイター訪問記

心を動かす、写真とコトバ

今回のクリエイター訪問記は、2017年に東京から徳島へ移住してきたフリーランスの村山嘉昭さん。仕事の主軸となるフォトグラファーとしての活動の他、ライター業も行う村山さんは、特にルポの実績を多く持っています。クライアントワークをメインで行うクリエイターとはまた違った魅力を持つ村山さんの仕事を覗いてみましょう。

フォトグラファー ライター・村山 嘉昭さん

徳島に移住をする以前、東京時代から災害に関する取材をたくさんしてきたという村山さん。東日本大震災のときには、地震発生の翌日には東京を出発して、2日後には仙台で被災地の取材をしていたと言います。同時に、モンベルの支援活動に加わって避難所に物資を届けるなどの活動もしていたのだとか。そしてその後も頻繁に被災地に通って取材を続けてきました。

「被災地を見続けること、誰かに伝え続けることは大事なことだと思っています。だから震災から10年以上が経った今でも時々東北に足を運んでいるんです。2021年までは毎年春に被災地の桜を撮影しに行っていました」

今では徳島に拠点を置く村山さんですが、東京時代から全国を飛び回っていたように、今でも広範囲で取材活動を行っています。

自然のままの姿を撮影すること

村山さんは自身のライフワークを「市井の人びとの撮影」だと言います。だから、得意とするスタイルは“ロケ”なのだとか。

「スタジオ撮影のようなものではなく、やっぱり僕のスタイルはロケですね。これまで、一次産業に携わっている人など、自然の中にいる人たちの取材・撮影をたくさん行ってきました。そういったロケの中でも、被写体に構えてもらって撮る写真ではなくて、自然のままの姿や日常を撮影することを心掛けています」

そうやって撮りためてきた写真を使って、これまでに3冊の著書を出版している村山さん。その中の一冊『石木川のほとりにて』についてこう話します。

「これは長崎県にある石木川の周辺住民を撮った写真集ですが、彼らはダムの建設に反対している人たちなんです。ダムを建設すると水没してしまう集落で暮らしているんですよね。彼らはメディアに取り上げられることが多々あるのですが、それは反対活動のシーンばかり。だから、世間にはそのときの怖い顔をした彼らのイメージしかなかったんです。それで『怖い人たちだ』とか『理由なくただ感情的に反対しているんだ』などと言われたりもしていて。だから、彼らの日常を写真集にして、どんな思いで暮らしているのか、なぜダム建設に反対なのかを丁寧に伝えることが必要だと思ったんです」

村山さんの写真を見ると、自然な姿の中にこそ、伝わるものがある、伝えるべきものがあるのだと実感できます。だからこそ、自然な日常を撮影することが村山さんの写真の最大のポイントであるわけです。

心を動かすために必要なこと

「良い写真を撮るため、良い記事を書くためには、取材対象となる人たちとの信頼関係が必要です。地味だけど、時間をかけてまず信頼関係を作ること。信頼関係があれば、その人たちの本当の“自然な日常”が撮れます。どこかのメディアの記者が1日だけ現地にいって取材するのとは全く違うんですよ。そういった記者では聞けないことが聞けるし、撮れない姿が撮れるんです」

そういった取材は初めから掲載する媒体が決まっているわけではなく、かなりの日数をかけて自費で取材をしたものでも、何の仕事にもならないということもあるのだそう。村山さんはそんな自身の仕事スタイルを「フリーランスでないとできないこと」だと言います。

「ずっと取材をし続けて、たまたまスポンサーがついて本になったり、何かのメディアに使ってもらったりということもありますが、そうならずに大赤字になることも多々あるので、損得を考えるとこういう取材はできないんですよ。だから、自分の中で興味を惹かれたモノや人の取材は損得を考えずにやることにしています。それは会社員にはきっとできなくて、フリーランスだからこそできることだと思います」

ネットを見れば非日常的な美しい写真はいくらでも転がっている今の時代、村山さんはその対極にあるクリエイターだと言えます。
「ただ美しいだけの写真では、人の心は動かない」
そう話す村山さんは、どういった写真が人の心を動かすのか、どんな記事が人の心を動かすのかを知っています。その感覚は、企業の広報を手伝うクライアントワークにおいても、大きな力を発揮してくれるはずです。