2023.10.02

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【とくしまデザイン塾レポート】第5回「リスクマネジメント」

2023年9月13日(水)に、第5回とくしまデザイン塾を開講しました。今回のテーマは「リスクマネジメント」です。デザイナーとして、特にフリーランスで活動するのであれば、デザイン以外にもカバーすべき業務が多数あります。そのうちの代表的な一つが、クライアントとの契約。正しい知識がないまま、曖昧な知識で進めていると、困難な事態に発展することも。

そこで今回は、INPIT(※)徳島県知財総合支援窓口・窓口支援担当者の青木幸司さんを講師にお招きし、「知的財産権」や「契約」に潜むリスクのマネジメント方法について学びました。普段馴染みがない専門用語も、分かりやすく例えを用いながらご解説いただきました。

そもそも、リスクマネジメントとはなんでしょうか。青木さんによると、リスクマネジメントとは、事業にとってのリスクを分析し、対応を検討することだと言います。例えば、デザイン業務において頻出するリスクは「デザイン料を支払ってくれない」ことなど。これに対しては「そういう危険があるような依頼ならそもそも受注せずリスクを回避する」「前払い制にして未払いを防止する」などの対策が考えられます。

このように、デザイン業務に潜む様々なリスクの中には事前に予防できるものもあります。もしものために備えるためには、私たちにどんな権利が付与されていて、どんな契約ができるのかを知る必要があります。今回の講義では、権利や契約の概論を青木さんにお話しいただきました。

まずは知的財産権についてです。

知的財産権のリスクには、まず自分が「他人の知的財産権を侵害してしまう」ことが挙げられます。例えば、自分が作ったものが他人のデザインと類似してしまうケースです。ここでは、どこまでがデザインを「参考にする」範囲で、どこまでが「真似」に当たるのかを教えていただきました。そのほか、デザイン業務のリスクとしては「ノウハウが漏洩すること」「権利の帰属で揉めることや権利を失う」が挙げられます。講義では、これらの適切な守り方を教えていただきました。

次に、知的財産権のうちの「著作権」について学びました。この権利は、他人に譲り渡すことが可能で、例えば制作物の納品と同時にクライアントに著作権も譲る契約を結んでいる場合は、その著作物を利用する権利はクライアントのものとなります。もう一つ、創作と同時に発生する権利に「著作者人格権」があります。実はこの権利は、譲り渡すことが不可能です。そのため、例えクライアントに著作権を譲ったとしても、原則的には作者が意図しない改変は勝手にすることはできません。

青木さんは、自作のチラシを見せながら「どこが著作物に当たるか」のクイズを出してくださいました。簡単なコピーも、コピーライターが考えたものであれば著作物に該当するかと思いきや、ありきたりな表現は著作物に該当しないなどの学びがありました。

次に、商標権について学びました。著作権と違い出願と審査があり、登録商標として認められると、類似した商品やサービスでは同じネーミングやマークが使用できなくなります。

もしデザイン業務にネーミングの提案も含まれる場合は、商標の知識も必要になります。調査をせずに業務を進めた結果、他社がすでに商標を登録していて使えないことや、権利侵害になる可能性があります。講義では商標の取得のプロセスや、他社が既に商標を取得しているかどうかの調査方法もレクチャーいただきました。

最後に、契約に際しての入門的な知識をお話しいただきました。契約とは、当事者間の取り決めのことです。決まった形式はなく、合意があれば口頭でも成立するのだそう。よくある勘違いとして、「相手は大手だからまともだろう」「変な契約はさすがにしないはず」と思い込みがちですが、雛形として出回っているものを自己流でアレンジされたものもあるとの注意喚起がありました。

また、クライアント自身もよく理解せず契約書を作成している場合があるため、契約書については顧問弁護士や適切な窓口に相談することが大事であると強調されました。

最後に、青木さんより契約や交渉に強くなるためには「場数を踏むこと」が大事であると教えてくださいました。また、最も確実な手段としては「専門家(弁護士・弁理士)に相談すること」だとおっしゃっていました。すべての判断は「ケースバイケース」なため、自己判断をせずに専門家の判断を仰ぐことで、大きな損害を防ぐことにつながります。

質問タイムでは、「アイデアは著作権には含まれないなら企画書も著作物にはならないのか」や、「共同制作した場合の著作権の考え方について教えてください」など、今までの業務で疑問に思った内容をお聞きすることができました。青木先生は、「これらの質問は、INPITの窓口でいつでも無料相談が可能なので、いつでも来てください」と気さくにおっしゃってくださり、講義を閉じました。

※INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館、略称:インピット)は、47都道府県に「知財総合支援窓口」を設置し、「知的財産」の側面から課題解決を図るほか、高度な課題に対しては専門家を活用し、中小企業等の事業成長支援を行っています。

2023年5月から始まったとくしまデザイン塾も、この講義で前半が終了。デザインの本質的な思考術から、インプットの方法、写真をはじめとする素材との付き合い方から契約まで、幅広い知識を身に付けることができました。

いよいよ次回からは後半戦に突入します。後期では、県内企業のみなさまにご協力いただき、「クライアントワーク」を実施します。現場で活躍するクリエイターをメンターとして招き、受講者はメンターのサポートを受けながらクライアントの課題解決に取り組みます。受講者たちのクリエーションの様子もレポート予定です。お楽しみに!