今回のクリエイター訪問記は、KENデザイン事務所のグラフィックデザイナー・岡本早弥香さん。岡本さんは、かつて街づくりなどのボランティアや、エコバッグを普及させるためのグループ『MY BAG GIRLS』としてド派手に変装して街頭に立ったりと、デザイン以外の表現活動もたくさん行っている個性的なお方です。
現在はグラフィックデザイナーとして活躍している岡本さんですが、子どもの頃はデザインの道には興味がなかったのだと話します。
「キャラクター等のイラストを描くのは好きだったのですが、『デザイナーを目指そう』とかは考えていなかったんですよ。でも、何かを表現することは好きでした。学校の文化祭で歌をうたったり、阿波おどりの連にも入っていましたね。自分が何かを表現して、誰かに見てもらうというのが好きだったんです」
子ども時代から“表現者”であった岡本さんは、高校卒業後、大阪芸術大学短期大学部デザイン美術学科に進学することになります。
「大学に入って本格的にデザインの勉強をするようになり、そこで初めてデザインの楽しさに気づいたんですよね。デザインというクリエイティブの中で自分の表現ができるということに喜びを感じるようになりました」
大学時代は、自分のデザインが店舗などの公共の場に置かれることを夢見て勉強に励んでいたという岡本さん。そして、その夢を叶えるべく、卒業後は大阪のコスメ雑貨メーカーに就職したのだそうです。
「新卒で就職した会社では、コスメ雑貨の商品企画からパッケージデザインまでを担当していて。その会社はそれほど大きな会社ではなかったですが、だから逆に1年目から全国の店舗に並ぶ商品のデザインをさせてもらうことができて、いきなり夢が叶うことになりました(笑)。その当時に作ったパッケージデザインのひとつに泡立てネットの商品があって、それは今でも全国の店舗で販売されているロングセラーになっています」
パッケージデザイナーとしてプロクリエイターの第一歩を踏み出した岡本さん。後に地元である徳島に帰ってくることになるのですが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
「パッケージって、商品を取り出したら捨てられてしまうじゃないですか。だから、自分はゴミを作っているようなものだなぁと思っていた時期があったんです。そんなときに、徳島の新町川ボードウォークで開催するLEDアートフェスティバルに参加しないかというお誘いをいただいて。そこにボランティアスタッフとして参加して、LEDを使ったアート作品を作ったんです。そのイベントで新町川ボードウォークにたくさんの人を集めることができて、『徳島でもこんな面白いことができるんだな』と思って、それが徳島に帰ってくるきっかけになりました」
帰徳後は街づくり、賑わいづくりのボランティア活動の他、エコバッグ普及のための『MY BAG GIRLS』活動など、ときには体を張って徳島のために精力的に活動してきた岡本さん。
「そういった活動をしている中で『自分はやっぱりデザインが好きだな』と改めて思うようになりました。それで、KENデザイン事務所でデザインを続けることになったんです」
その後も続けていた『MY BAG GIRLS』では、子どもの頃から得意としているイラストスキルを生かしてオリジナルキャラクターを自作するなど、クリエイターとしての能力も発揮しながら活動していたそうです。
かつては、『ゴミを作っているのかも』とデザインという仕事に限界を感じていた岡本さんですが、今現在、グラフィックデザイナーとしてどのような考えで仕事をしているのでしょうか?
「今でもパッケージデザインの仕事をいただくことがあって、そのときはできるだけゴミにならないようなパッケージの提案をするようにしています。例えば、土に還るバイオ素材のパッケージを提案したり。あと、重視しているのは“分かりやすさ”ですね。パッケージデザインには3秒ルールとか5秒ルールって言われるものがあって、パッと見てすぐに商品の付加価値が伝わるパッケージが優秀とされています。だから、まずは“伝えたいことを分かりやすく表現する”ということを大事にしています」
また、岡本さんは『自分のデザインでエンドユーザーの行動に繋がること』がデザイナーとして一番の喜びだと言います。
「私のデザインを見て、何かを買ってみたいとか、どこかに行ってみたいとか、誰かの何らかのアクションに繋がってくれたなら、それが一番嬉しいですね」
学生時代の文化祭のときも、街づくり活動のときも、『MY BAG GIRLS』活動のときも、グラフィックデザイナーであるときも、岡本さんの想いは同じです。“自分の表現を誰かに届けて、何かを与える”こと。そんな岡本さんの“表現”にこれからも注目しましょう。