2020.04.01

  • クリエイター訪問記

書家としての作品づくりは、まず“心”をつくること

文字を美しくみせる職業、カリグラファー。
徳島県阿波市市場町を拠点に活動する三浦由城子さんは、文字に様々な表情や景色を宿すかのように、筆を操るカリグラファーです。
大学時代から本格的に書道を学び、これまでに数々の個展を開いてきた三浦さん。
そんな三浦さんですが、普段、企業さん相手にどのようなお仕事をされているのでしょうか?

手書き名刺の書家・三浦由城子さん

インタビューに伺ったのは阿波市にある阿波三松園。
造園業を営む三浦さんのご実家です。
のんびりとした風景が広がるこの場所が三浦さんの書斎でもあります。

インタビューはまず名刺交換から始まるわけですが、そのときにいただいたのがこちら。

「さっき書いたばかりなので触ると墨が付くかも」と笑う三浦さん。
さすが書家の先生、名刺は毎回手書きなんだそう。

3枚ありましたが、それぞれ文字のテイストが違っていて、どれも素敵です。
迷ったあげく、左の名刺をいただきました。
そんな素敵な名刺の三浦さん、普段どんなお仕事をされているのでしょう?

 

「書家としての仕事は、会社・店舗のロゴや商品ブランドのロゴの書き下ろしが主ですが、他にも例えば幼稚園の卒園証書の文字を書いたりもしています。あとは、設計士さんからのご依頼で店舗の壁や襖に文字を書くこともありますよ」

 

書の創造は、イメージを想像すること

「会社名や商品名などの文字を書かせていただくときは、書体のイメージを具体的にヒアリングするわけではなく、文字自体が持つイメージや会社・店舗・商品の漠然とした印象から書を作り上げます」

クライアントに書体の希望を直接聞くのではなく、全体のぼんやりとしたイメージから創造していくのが三浦さんの書家としてのこだわり。
イメージを膨らませながら、多いときには100パターンもの文字を書くのだそうです。
ですが、依頼を受けたからといって、すぐに書き始めるわけではないのだとか。

「私の書は、自分自身のそのときの感情次第で変化するんですよ。だから、その会社や商品のイメージに沿った気持ちになるまで書かないんです。例えば優しい味わいの和菓子の商品名を書くのは、私自身が優しい気持ちになれたとき。つまり、私の仕事はまず心構えをつくるところからです」
言い方を変えると、「心に響かないと良い作品は書けない」ということだと三浦さんは言います。
その上で、気持ちを整えて書いた作品でも、自分自身で少しでも気に入らない部分があるとクライアントへのプレゼンには出さないのが三浦さんのポリシー。

「自分が書いた書体がパッケージとなって商品になったときのイメージを想像してみるんです。そこで少しでも自己満足できていない部分があると必ず後悔することが分かるので、納得できるまで書き続けます。中途半端な捨て案のようなものは絶対にプレゼンには提出しないですね」

最後に、実際に文字を書いていただきました。
一度筆を持ったら躊躇なく書きすすめるその所作は、大胆でとても美しくもあります。
和紙での手書き独特の“にじみ”や“かすれ”は、ペンタブレットなどではなかなか表現できないもの。
三浦さんはそれを墨の濃さでコントロールしているそうです。

テクニックはもちろんのこと、それ以上に気持ちの乗った三浦さんの書。
会社や商品の想いを、その文字で表現したいなら、三浦さんのカリグラフィーに頼ってみてはどうでしょう?