広告の前面を飾る短い言葉。いわゆる、“コピー”。わずか数文字から十数文字の短いセンテンスでありながら、それは見る人を一瞬で惹きつける広告の華とも言えるものです。では、そのコピーはどんな人が書いているのでしょう?今回は、徳島で長年コピーライターとして活躍されている新居篤志さんにお話を伺いました。
コピーライターという職業はなかなかなろうと思ってなれるものではありませんが、新居さんは学生の頃からそれを目指していたといいます。
「当時、『カタカナ職業』というのが流行っていたんですよ。職業名がカタカナで表記される仕事。グラフィックデザイナーとかフォトグラファーとか、なんかかっこいいですよね。その最たるものが『コピーライター』だったんです。当時は広告のクリエイターの中ではコピーライターが花形として扱われていて、かっこいいコピーが入った広告が僕の目にはとても輝いて見えていました」
そんな新居さんが大学卒業後、就職したのはワープロソフトで有名なジャストシステムでした。システム開発の会社のためエンジニアの求人がほとんどだったなか、新居さんは広報担当として入社します。
「当時ジャストシステムは他社に比べてとても洗練された企業広告を積極的にやっていたんですよ。それで、ここに入社したいと思って。販売推進課で様々な広告を担当して、デザインや写真は外注していましたが、当時PCに詳しいライターさんがいなくて、コピーは自分で書いていました」
その後、デザイン事務所を経て2001年にフリーランスのコピーライターとして独立した新居さん。独立後最初の大きな仕事は、男女共同参画社会をテーマにした冊子の制作でした。 そのときに書いたコピーが、『1×1=one』。夫婦それぞれの個性のかけ算でひとつのものが生まれる、ということを表現したコピーですが、一瞬見ただけでは意味を理解できないかもしれません。 そのことを新居さんはこう話します。
「スーッと流れていくようなストレートでキレイなコピーは書きたくなくて、どこかトゲがあったり、『どういう意味なんだろう』と見る人に考えさせるようなコピーを書きたいと思っています」
今まで数々のコピーを書いてきた新居さんですが、自身の作品で最も印象に残っているコピーのひとつが、この『たべて、オッ鶏(ケイ)!』なんだそう。
「鳥インフルエンザが流行していたときに、徳島県産の鶏肉や卵の安全性を訴求するために作ったポスターです。最初にクライアントから提供していただいたテキストはいかに安全なのかを説明した長文でしたが、それを短いコピーに。コピーもそうですが、デザインもポップでスーパーの売場ではとても目立つポスターになりました」
コピーとは、『クライアントが発信したいイメージと消費者が求めているものとのギャップを埋めるための言葉』だと新居さんは言います。 鶏を販売している側は安全性のロジックを細かく伝えたくても、消費者は食べても大丈夫なのかどうかを知りたいだけ。それを端的かつ笑いを効かせて伝えるクリエイティブは新居さんの真骨頂です。
コピーライティングの仕事をしていると、クライアントからキレイで分かりやすいコピーを求められることもよくあるんだそう。「サラッとキレイなんだけど当たり障りのないコピーは、僕はイヤなんですよね。誰にも刺さらない広告は結果としてクライアントさんの為にもならないので。これからもコピーライターとして、多くの人に刺さるコトバを追い求めていきたいと思います」
これまでも多くの名コピーを生み出してきた新居さん。それはきっとこれからも。どこかで何か引っかかる広告を目にしたら、それは新居さんのコピーが使われているのかもしれません。