今回クリエイター訪問記でやってきたのは、徳島市にあるデザイン事務所GRAPHISON(グラフィゾン)。代表の荒尾さんは食品関連のパッケージデザインを得意とするデザイナーです。スー パーやコンビニなどでは多くの他商品と横並びになる商品パッケージのデザインは、その差別化が難しいもの。そんななか、荒尾さんがどのような思考でデザインしているのか、お話を伺いました。
荒尾さんの出身校は芸術大学や専門学校ではなく、一般的な4年制大学。今では珍しくなくなった独学系のグラフィックデザイナーです。そんな荒尾さんですが、大学卒業後すぐにデザイナーの道へ進んだわけではなく、一度県内の菓子メーカーに就職していたのだそう。そこでは品質管理部に在籍して衛生管理や成分分析などを担当していましたが、そのときデザイナーさんのパッケージデザインの仕事を間近で見る機会があったといいます。
「自分の部門の仕事に比べて、商品パッケージの仕事というのは、ダイレクトに良い悪いの声が届くんですよね。良いパッケージが作れれば売れるし、そうでなければ売れない。仕事に対する評価が分かりやすいというか。当時の私にはそれがとても新鮮だったんです」
会社員時代は自身でデザインをしていたわけではありませんでしたが、そのやりがいや楽しさに触れて、デザイナーへの思いが膨らんでいった荒尾さん。その後、一身上の都合により会社は退職 しますが、フリーランスのデザイナーになるべく、パッケージデザインの自主制作を始めたのだといいます。
パッケージデザインの自主制作を何度かやっているうちに、古巣の会社の新商品のパッケージに採用されたのだそう。
「その商品はおまんじゅうでしたが、全国のコンビニで販売されるものだったんですよ。自分の作ったパッケージデザインで商品が店頭に並んでいるのを見ると、やっぱり嬉しかったですね。その嬉しさを知って、これからもデザイナーとしてやっていきたいなと思ったのを覚えています」
そうして始まった荒尾さんのデザイン業ですから、今でも商品のパッケージデザインは得意分野のひとつ。そのデザインのポイントを荒尾さんはこう話します。
「企業が個性のあるオリジナルの商品を作ったとしても、実際には世の中には同じような商品がたくさんあります。当然売り場ではそれらの商品と横並びになるわけで、その中で自分のデザインする商品を際立たせないといけません。そのために、まず商品のどこをどのような手法で表現すべきか見極めることを一番大切にしています」
「例えば、以前にゆずの商品パッケージをデザインさせていただきましたが、やっぱりゆず関連の商品ってたくさんあって、特にゆず玉をモチーフにしたデザインは世の中に溢れているんですよね。そういったデザインだと新商品だとしても消費者には新鮮には受けとめられない。だから、違った切り口を考えました。そのゆず商品は、ゆず農家のお母さんたちが直接作っているというのが最大の特徴でした。そのお母さんたちの暮らしには、ゆずを仕入れて加工している業者では見ることができない風景があります。そんなゆずの木の “四季”を伝えることができる贈り物をと、農家の方と一緒に企画段階から試行錯誤。春夏秋冬、実際にゆず畑に足を運び、肌でその表情を感じながら、商品コンセプトやデザイン表現を探っていきました」
デザイン作業に入る前に、まずは商品の特徴や市場を“見極めること”。その最も重要な部分ができれば、あとはそれをアウトプットするために的確に表現できる手法を選んでいきます。荒尾さんはその手法に色鉛筆や筆、ハケ、消しゴムはんこなど、多様なツールを用います。その多様さも、その他多くの商品に埋もれないための表現手法なのでしょう。いつも変わらないありきたりな商品デザインに悩んでいる企業のみなさん、それなら一度、荒尾さんに相談してみては?