2023.12.22

  • クリエイター訪問記

『情緒的価値』をパッケージに込める

何かの商品を販売するのに必ず必要となる“パッケージ”。商品そのものの良し悪しはもちろん重要ですが、パッケージも商品の売れ行きを左右する大きな要素のひとつです。良い商品でもパッケージが悪いと全く売れなかったり、パッケージを変えるだけで売上が何倍にもなったり。今回のクリエイター訪問記は、パッケージを専門に扱う会社『パッケージ松浦』に行ってきました。

パッケージマーケッター・松浦陽司さん

徳島市丈六町にある『パッケージ松浦』。世にデザイン会社はたくさんありますが、『パッケージ松浦』はその中でも珍しい、パッケージ制作を専門としている会社です。会社を率いるのは同社の2代目、松浦陽司さん。

県内外から様々なパッケージの相談を受ける多忙な松浦さん。この取材日もオンラインでパッケージの打ち合わせをしていました。そんな松浦さんの名刺には『パッケージマーケッター』という肩書きが書かれています。あまり聞き慣れない肩書きかと思いますが、松浦さんの言葉を借りるとパッケージマーケッターとは『パッケージを通じた売上の上がる仕組みをつくる仕事』だそうです。

パッケージを売らないパッケージ屋

松浦さんは自社のことを『パッケージを売らないパッケージ屋』だといいます。何か格言のような言葉ですが、その真意を聞いてみました。

「お客さんが欲しいのは実はパッケージそのものではないんですよね。お客さんのパッケージに対する需要は大きくふたつあって、まずは安心安全に商品の輸送ができる箱としての役割。これはパッケージの機能的価値です。それともうひとつは販売促進の役割。お店で商品を見かけた人をワクワクさせられるような情緒的価値です。このふたつの価値がパッケージにとって最も重要なことだと思っています」

特に売上に直結する情緒的価値の部分がパッケージマーケッターとしての腕の見せ所で、その手腕が評価されて今や数多くのパッケージを手掛けている松浦さん。ですが、かつては情緒的価値を生み出すということよりも、安売りや短納期対応をウリに営業していたのだといいます。その頃はまさに『パッケージを売るパッケージ屋』だったわけです。

「昔は安売りの方針だったので、パッケージのデザインも無料でやっていたんですよね。そうするとそこにあまり時間もかけられないですから、情緒的価値を持ったパッケージができるわけもなく…。ですが、2011年頃から考え方が変わっていったんです」

安売りの会社からパッケージマーケティング会社へ

そもそも「パッケージ屋をゴミ製造業だと思っていた」と話す松浦さん。エンドユーザーは商品が欲しいわけでパッケージは購入後ただのゴミになるので全然価値がない、という考えが変わったきっかけは東日本大震災だったといいます。

「東日本大震災の後、いろんな商品が品薄になって、お店の棚からモノが消えましたよね。あれは、パッケージの在庫が無くなったことも原因のひとつなんですよ。パッケージがなければ商品を衛生的に安全に運ぶことができませんから。そのときに、パッケージはゴミじゃなくて、日本の物流を支えているということに気付きました」

パッケージの価値の本質に気づいてから会社の方針は大きく変わっていき、安売りの会社から、今ではパッケージの情緒的価値を深く追い求めるマーケティング会社にまで変貌しています。

そんな松浦さんのパッケージマーケティングの成功事例を見せてもらいました。こちらの焼肉の タレは、右が昔の商品、左がパッケージ松浦でラベルをリニューアルした商品です。

「この焼肉のタレはパッケージをリニューアルして売上が8倍になったんですよ。ポイントは『語 りかけ口調』と『シーン想像』です。語りかけ口調のネーミングで売上を伸ばしている商品って結構あって、例えば『ごはんですよ』とか『お~い、お茶』とか。普通に『海苔の佃煮』とか『煎茶』 という商品名にするよりも遥かに魅力的に感じますし、日常のシーンを想像できますよね。だか ら『今夜は焼肉じゃ』なんですよ」

松浦さんが手掛けたパッケージで売上を伸ばした商品は他にもたくさん。「商品には自信がある のになぜか売れない…」そんな悩みを抱えている人は一度松浦さんに相談してみてはどうでしょ う?