神山町でフリーランスのクリエイターとして活動している伊藤ミサさん。職業のカテゴリで言えば『イラストレーター』に当てはまる伊藤さんですが、イラストの中でも“切り絵”を得意とする希少なクリエイターです。今回は神山町のスダチ畑に囲まれた場所でのインタビューとなりました。
名古屋出身の伊藤さんは、2023年2月に神山町に移住してきました。クリエイター業の他、中学校での美術の非常勤講師や、介護福祉士など、多方面で活躍されています。まずは、そんな伊藤さんの経歴を聞いてみました。
「子どもの頃から絵を描くのは好きでしたが、大学では当時強く興味を持っていた文化人類学を専攻できる大学に進学したんです。その大学時代、小学校の頃教えてもらった切り絵を思い出して自主制作を始め、大学卒業のタイミングで個展を開催しました。その個展をきっかけに、『創作をライフワークにしたい』と思うようになりました」
大学卒業後、介護の仕事にも興味があった伊藤さんは、東京で介護職に就きながら、創作活動と展示会を続けていたそう。
「介護施設の中で、施設利用者とアート制作をする時間があって。それがきっかけで、自分が作品
を制作するだけでなく、誰かに教えたり、制作の場作りのようなこともやりたいなと思うように
なったんですよ。美大に入学すれば、美術教育を学べて、創作の幅も広がると考え、思い切って介護の仕事を離れました」
そうして入学した奈良芸術短期大学では日本画を専攻し、教員免許も取得したという伊藤さん。今では中学校で美術を教える経験を積みながら、並行して創作活動を行っているそうです。
そんな伊藤さんですが、クリエイターとして初めて受注したクライアントワークは、山岳雑誌『岳人』の挿絵制作だったといいます。
「東京で介護職をしていたときに、副業でイラストレーターもやろうと思って、仕事を探していま
した。大学時代に山岳部に所属していて山が好きだったこともあり、山のジャンルなら仕事を
もらえるかもと思って、『岳人』の編集部に営業に行ったんです。そこから現在に至るまで『岳人』では挿絵やスケッチ入りの登山ルポルタージュを執筆する等の仕事をさせていただいています」
同誌で6年間続いた、山岳文学を紹介するコーナーでの挿絵も、伊藤さんが得意とする切り絵を用いて描かれています。
「挿絵って雑誌の主役ではないので、本文の邪魔になってはいけないんです。でも、読者を惹き
つけるためのインパクトも必要で。そういう意味で、切り絵は挿絵に向いていると思っています」
本文のイメージを読者にそっと伝えるように、伊藤さんの絵は使われています。
近年のイラストレーターには、ペンタブレット等を使って完全デジタルで作品作りをする人も多くいますが、伊藤さんはその真逆。作品作りは全てアナログで行うようにしているのだそう。
「私は、デジタルだと作品に気持ちを入れるのが難しいんです 。だから、自分の作品でもクライアントワークでも、制作は全てアナログで行うようにしています。切り絵の場合は、自分で紙を染めるところからやることが多いですね。最初から色が付いている市販の紙だと決まった数パターンの色しかないですが、自分で染めれば濃淡等を自由に調節できるので」
もちろん最終的にはデジタルデータに変換するわけですが、伊藤さんの作品にはアナログな切り絵ならではの魅力があります。
そんな伊藤さんの作品の力が大きく発揮される仕事のひとつが『商品パッケージ制作』です。こちらの写真は、伊藤さんがパッケージイラストを描き下ろしたハーブティー。右が商品で左がその原画です。ハーブティーのブランド名から浮かぶ少女の情景を切り絵で描いています。感性に訴えかけてくるようでもあり、どこか安心感もある切り絵のイラストは、購入者の心を動かしていることでしょう。
伊藤さんは毎年のように個展を開催しています。切り絵作品に興味がある、伊藤さんの作品を商品パッケージに取り入れたい、という方はぜひ一度個展に行ってみてください。